


第一部の基調講演に登壇したのは、株式会社日経BP社の中島久弥氏と松平悠公子氏です。まずはじめに中島氏から同社の会社紹介があり、その中で強調されたのが、同社は紙の書籍や雑誌のみを出している出版社ではなく、「雑誌/ネット/イベント・セミナー」という3つの主要メディアを持つ企業だということでした。雑誌を発行する一方で、雑誌から発展したWebメディアを複数運営、そして読者を対象としたイベントやセミナーを通じたリアルなコミュニケーションも可能としているのが、同社のビジネスの大きな特徴です。
その中でも、日経BP社のネット事業は月間1億以上のPVを持っている大規模なものです。「リーマンショック以降、媒体を整理した」と中島氏。それでも1億3,000万PV/月程度のレベルを維持しているといい、このような実績は簡単に築き上げたわけではないのです。同社では、1996年からネット媒体の事業をスタートさせていた他、同年にはデジタルコンテンツ事業にも取り組んでいます。この事業は、雑誌のコンテンツをDB化して、このDBの検索サービスを企業向けに提供するものでした。このとき「雑誌記事をDB化する」という取り組みがなされたことは、その後のデジタルコンテンツやネット媒体に関するサービスを充実させていく上で「大きなきっかけでした」と中島氏は振り返りました。
実際、2003年にはシャープの電子辞書にコンテンツが搭載されたり、2008年には携帯電話からの過去記事検索へ対応(有料)、さらには2009年からはiTunes StoreのAppStoreでのコンテンツ販売、2010年4月からは、携帯電話向けに書籍の販売といったように、新たな商品やサービスを常に投入し続けています。そして2010年後半は「スマートフォンに対して積極的に取り組んでいきたい」と、中島氏は話しました。
また、携帯電話やスマートフォン向けで売れるコンテンツは「紙媒体とは違う。タイトルも構成もデバイスの特性に合わせて作り込まなくてはいけないでしょう」現在、電子書籍は誌面を再現したものが中心ですが、その後はデジタルならではの付加価値をつけたもの、そして「将来的にはまったくオリジナルのものになっていくでしょう」とも。
紙媒体の売り上げは確実に下がっており、広告市場も厳しい局面にありますが、その中でも、ネットメディアや電子書籍、電子雑誌には大きな可能性があります。中島氏は「デジタルの特性を活かした新たな市場はかならずできてきます。これは大きなチャンスだと考えています」「InDesignのようなツールにもどんどん進化してもらい、みんなで市場を創造できるようになってほしい」と話しました。


続いて、同社の制作を統括する松平氏から、多メディアに向けたコンテンツを制作する上で、どのような取り組みを行っているのかが紹介されました。
松平氏は「編集部は、編集部や制作会社にあるコンテンツを、検索性を備えた、属性を持ったデータベース=コンテンツマネジメントシステム(MEDOC:Magazine Editing and Database Of Color-printSystem)として持つことが重要です」と。そして「デジタライズしたものを二次利用するための著作権のクリア」「実際にCMSを運用するための、編集部や制作部隊に対する技術サポート」も欠かせないと話します。
しかし、CMSを運用し、シングルコンテンツをマルチデバイスに展開させていく上で問題となるのが、制作の現場を外に持つのか、中で持つのかという選択です。製作現場を中に持つことで、システムの細かい運用をしやすく、ノウハウも確実に蓄積できるほか、スケジュールのコントロールも可能です。「大きな意味では、制作コストがブラックボックス化せず、コストダウンが可能になる」しかし固定費は確実に増えますし、ソフトウェアの維持管理や更新には確実なコストがかかります。それでも同社はメリットを取り、自社で制作部隊を持ち、CMSを持つという「イバラの道」(松平氏)でした。
社内で制作部隊もCMSも持つことで、シングルコンテンツをマルチデバイスに展開させるためのワークフローの標準化は、しやすくなりました。それでも松平氏は「編集者に対しては説得・教育が必要」と話します。編集者は仕事に追われ、著作権管理がルーズになったり、CMSの運用ルールが守られなかったりといったことは、どうしても発生すると言います。ワークフローを標準化し、マルチデバイスへの対応を進めるために、同社では「マルチデバイスタスクフォース」というものを始動させ、全社的に啓蒙を進めているとのことでした。