[トークセッション]

  昨日の東京に引き続き+DESIGNING 副編集長 小林功二氏の進行で、DRAFT の田中竜介氏と福岡南央子氏の2 名のアートディレクターをお招きし、アドビのフィールドマネージャー岩本崇を交えて「『KITCHEN』と『世界のKitchen から』ができるまで」と題してトークセッションが行われました。

  まず田中氏から「この仕事は自分にとって一番愛着があると同時に、現在、いろいろ行っている他の仕事にもつながっており、デザインやアートディレクションの考え方のベースになっているから」とベトナム料理店“KITCHEN”の事例を今回紹介することにした経緯の説明がありました。KITCHEN のオーナーは、もともと奥様の友人で大学時代からの知り合いだったそうで、田中氏がDRAFT在籍7・8 年目のころに、念願のお店をオープンするに際してデザインを依頼されたとのこと。当時、田中氏は会社の上司や先輩から指示されたことをこなすだけで、自分のデザインで商
品が売れるとかは、それほど意識していなかったそうです。ところが「KITCHEN の仕事は、個人のお店で、お店が成功しないと食べて行けない。これまでのような仕事の捉え方ではいけない。もっと積極的に自分のデザインが何か役立てればと、ネーミングや店内壁面のイラストやメニューなどもオーナーと深いところまで話し合って制作した」そうで、その姿勢は、現在の他の仕事にも活かされているそうです。

  その後、料理教室も開くようになり手づくりで低コストの、しかし、かなりこだわったテキストも制作されました。このテキストは、後に料理本として出版されましたが、その際、デザイナーとして加わった福岡氏とベトナムに取材して、現地の街の看板などをデジカメで撮りため、加工してタイトル文字などに使われています。しかも驚くべきことに、この本はIllustrator とPhotoshop で作られ、InDesign のようなページレイアウトソフトは使われていません。しかも、例えテキストだけのページでも一旦Photoshopで加工し、全ページ画像データとして入稿されておりまさに、こだわり抜いた力技の一冊と言えます。福岡氏の「この本を作ったとき、InDesign の存在を知っていたら、あんなに徹夜しなくて良かったかも。いまInDesign に興味があります」と言うつぶやきにご苦労が現れています。

  また、東京都現代美術館にカフェを出店することになり、ムービーによるサインを作られたのですが、その制作工程に会場はどよめきました。手書きのイラストをスキャンし、Photoshop で少しずつ動かしながらパラパラ漫画のようにレイヤーを重ねて作られていますが、レイヤーの数が500 枚ぐらいになったそうです。それを1 カットずつファイルに書き出し、それを映像ソフトに読み込んでムービーにすると言う力技。進行役の小林氏からPhotoshop CS4 EXTENDED 版(CS3 EXTENDED 版でも可能)でもっと簡単に短時間で アニメーションを作成できる方法を知らされると「その機能があれば、すごく良かったなと切に思います」と苦笑いされていました。

 田中氏のこだわりは、それだけに留まらず、映像内に使われている文字にも現れています。映像のテイストに合わせるため、メニューなどの文字もPhotoshop でノイズをかけ、それをレベル補正で白く飛ばしたりぼかしたりして、さらに焼き込みツールや覆い焼きツールで強調したり薄くしたりと、かなりの手間をかけて制作されています。「いろんなデザイナーの仕事を見てきましたが、本来、写真の修正に使う焼き込みツールや覆い焼きツールを文字の加工に使われるのは初めて見ました」と進行の小林氏もビックリ。アドビの岩本も「我々が提供しているものはあくまでも道具でしかありません。クリエイターの皆さんが思い浮かべたアイデアをカタチにする際に、PhotoshopやIllustratorがお役に立っているのは非常に嬉しいことです。我々が想定していない使い方も大歓迎。こんな使い方も出来ると教えていただき、どんどん参考にしていきたいですね」と感想を述べました。ちなみに以前はプリントアウトした文字をコピー機で拡大縮小を繰り返し、加工して文字に風合いを出しておられたそうです。

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次に福岡氏から“ 世界のKitchen から”の話題に移りました。福岡氏は田中氏と一緒にデザイン作業をされていたこともあり、手作業と異素材とパソコンでの作業を組み合わせた制作スタイルが多いそうです。“世界のKitchen から”ではブランディング全般とグラフィック制作を継続して担当されています。当日は参加者に“世界のKitchen から”シリーズの“とろとろ桃のフルーニュ”が配布されましたが、その独特の世界観を持った文字について具体的にどのように加工しているかの説明がありました。
 福岡氏の文字へのこだわりも相当なもので「海外に行っても風景写真などは全く撮らずに、看板などの文字ばかり撮っている。時間のある時に、その写真や海外の本屋などで集めた古い書体集などをスキャンし、パス化して自分なりの書体フォルダを作ってアーカイブしている」それを仕事のイメージに合わせて使い分けているそうです。「なぜこのような面倒なことをやるのかと言うと、最近の印刷は綺麗になり過ぎて、自分の好きな印刷物の感じになかなかならないので、手作業やパソコンを使い工夫している。特に日本語は“ゆるい”書体が少ない。例えば、“世界のKitchenから”の文字は、田舎に行くとおばあちゃんが自分で作ったハチミツとかに自分で書いて売ってる感じが良いなと思って」と参加者の皆さんのデザインワークのヒントや参考になる有意義なお話が数多くありました。

 最後に小林氏より「福岡氏のように自分も文字資料をパス化して使いたいと言う方も多いと思いますが、そんな時にはIllustrator CS2 から搭載されている“ライブトレース機能”が便利です。そのほか、なにかデザインする場合、アプリケーションのバージョンが高いほど、作業が効率的に短時間で、しかも高品質なものができる。また、いま使っているアプリケーションにも知らない機能が数多くあると思うので、ぜひ一度見直してみては」との提言がありました。

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